————洗剤を入れ忘れたまま洗濯機に放り込んで、揉みくちゃにされた雑巾みたい……。
半日以上経ってようやく再会したクロムの姿を見て、ルフレがまず思ったのはそれだった。
場所は再び応接間、その場にいるのも三人と、先程までと変わらない状況のように思えるが、メンバーがひとりだけ入れ替わっている。
インバースの代わりに、ルフレの斜め向かいでぐったり一人がけソファに沈み込んでいるのは、あわやのところで救出に成功したクロムだ。
屋敷の裏手に広がる雑木林を抜けてこっそり敷地内に入り、裏庭で番犬二匹に発見されるや泥棒と思われ追いかけられ始めた彼は、噛み付かれそうになるのを持ち前の運動神経で何とか回避していたものの、そこへさらに強敵が加わった。
「も、申し訳ございません! まさかお嬢様のご結婚相手だとは存じ上げず……っ!!」
……ルフレを出迎えてくれた時、手に持っていた箒を片手に颯爽と駆けつけたティティ――今、目の前で絶賛平謝り中の、意外と逞しかった老婦人である。
吠え立てる二匹の声で侵入者の存在を察知し、大事なお嬢様をお迎えしている時に忍び込もうとは何という不届き者かと憤慨した彼女は、侵入者を追い払おうと猛然と箒を振り回し始めたのだった。
クロムは幼い頃から弓道と剣道で鍛えているし、護身術もかなりの腕前だから本気で立ち会えば圧勝なのだが、自分が招かれざる客だという自覚があった彼は穏便に済ませたいと思っていたらしく、とにかく専守防衛、回避と防御に専念し続けたようだ。
ただ屋敷を離れるわけにはいかなかったから、中には上手く防ぎきれずに服を齧られたり、箒の結構痛い一撃がヒットすることもあり。
ルフレが現場に辿り着いたときには、控えめに言ってボロ雑巾のような状態になったクロムが、それでもどうにか話を聞いてくれと必死に訴えようとしては、問答無用とティティに斬り捨てられているところだった。
「いえ、あの、ティティさんはクロムさんのことを知らなくて当然ですし、正面から入ろうとしなかったのはこちらなので、謝らないでください……!」
「ですが……」
どうにか事情を説明して場を収め、応接間まで移動する間も今も、ティティはずっとこの調子だ。何度も彼女に責はないと言っているのだが、一向に納得してくれない。
このままでは埒が明かないと思ったルフレは、少々強引にお茶が飲みたいと頼んで話題を逸らした。
実際、ぼろぼろになっているのに加えて相当汗をかいたらしいクロムには、水分補給が必要だろう。ティティも、やることがあった方が気が紛れていいと思う。
しばらくしてお茶を運んで来てくれたティティに、声を掛けるまで二人きりにしてほしいとお願いして、やっと落ち着いたのはいいものの、何と声を掛けようか迷う。
母の日記を読んでクロムと向き合う決意を固めたルフレだったが、再会した旦那様がぼろぼろ過ぎて、なんというかそういう雰囲気ではない……気がする。
「えっと……クロムさん、大丈夫……ですか?」
結局ひねり出せたのは、そんな当たり障りない台詞だけで。けれどソファに沈み込んでいたクロムは、この世の終わりのような暗雲を漂わせ、ますますうなだれてしまった。
「………………ああ」
「あの……私を探しに来てくださったんですよね? 玄関から訪ねてくれれば……」
「………………すまん……」
「私が間に合ったからよかったですけど、危うく怪我をするか、泥棒扱いで警察に突き出されちゃうところでしたよ?」
「……………………本当に、すまん…………」
「……? えっと……クロムさん?」
クロムの様子が変だ。
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