ゆっくりと、ルフレは日記を閉じた。
無意識に潜めていた息を吐き出しながら、滲む視界を元に戻そうと目元を拭う。
「母さま…………」
胸がいっぱいで、それ以上は言葉が出てこなかった。母の想いが詰まった日記を、縋るように両手で抱き締める。
この日記にあるように、いいやそれ以上に、母はルフレを愛してくれた。幸せだった。
改めて、ちゃんとクロムと向き合おうと強く心に決める。
母がそう願ってくれたように、好きなひととの幸せを、自分で掴みにいくのだ。
そして、ルフレが決意を新たにしたのを待っていたようなタイミングで、外から犬が吠える声が聞こえてきた。
近くに人家はなかったからこの屋敷で飼われている犬なのだろうが、吠え方が危急の事態を知らせるような鋭いものに感じられたので、気になって窓辺に近寄り、分厚いカーテンを開く。
この部屋は裏庭に面していたようで、ゆっくり傾きつつある午後の日差しに照らされているそこには、多分ドーベルマンと思われる筋肉質な犬が二匹と、犬たちに飛びかかられそうになっている————。
「く、クロムさん?! 大変……!」
今まさに思い浮かべていた恋しいひとの姿を認め、一瞬目を丸くしたルフレは、すぐに状況を思い出し慌てて走り出す。
追いかけて来てくれたのだと思うが、ああして吠え立てられているということは、こっそり忍び込もうとして番犬たちに見つかったというところか。
彼が不法侵入者として警察に突き出されてしまう前に、事情を説明しなくては。
パタパタと慌ただしく階下へ降りるルフレの後ろで、母の思い出の品々は物言わず娘を見送っていた。
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