夫婦になるまで7 - 7/7

「…………私、クロムさんのこと、本当に、真剣に好きなんですよ」
「……ああ」
「もし母さまが元気だったとしても、クロムさんがプロポーズしてくれたら、絶対はい、って言ってました」
「ああ……」
「クロムさんと、お互いおじいちゃんとおばあちゃんになっても一緒にいたいって思ったからプロポーズを受けたのに、寂しい時にちょっと優しくされたからよろめいた、みたいな軽い女だと思われてたなんて、すっごくすっごく心外です」
「うっ……す、すまん……」
 ルフレが何か言う度に、一度上げられたクロムの頭は地にめり込む勢いでまた下がっていった。
 癖のある濃い青髪はぐしゃぐしゃ、ワイシャツもズボンもよれよれだし、おまけに一日走り回ってくれたのかちょっと汗臭い。
 ルフレが通う学園に教師として正式に赴任したら、女生徒が放っておかないだろうと密かに危惧していたいつもの格好よさは行方不明だ。
 でも————。
「…………もう。仕方がないですね、クロムさんったら」
「ルフレ……?」
 うなだれるボロボロの旦那様を、ルフレはそっと抱き寄せた。
 一人がけの長椅子に座っているクロムの側に前屈み気味で立って、彼の頭を自分の胸元で抱き抱えるような形だ。
 汗のにおいが強まったが、今はそれさえもクロムのものだと思えば愛おしい。
 多分、ルフレはいつも優しくて、自分を守ってくれる頼もしい姿だけではなく、こんなクロムのことも見たかっのだ、と思う。
 弱くて、情けなくて、みっともなくてもいい。
 だって、自分たちは家族なのだから。
 他の誰も知らない彼の一面を、家族で、妻である自分にだけは見せて欲しい。
「私はクロムさんの奥さんですから、昨夜のことも含めて全部許してあげます。……ひとつだけ、私の欲しいものをくれる、って約束してくれるなら」
「っ! な、何でも言ってくれ! 絶対に手に入れる!」
「もう……そんな簡単に約束しちゃっていいんですか? 私が無理難題を吹っ掛けるかもしれませんよ?」
 大好き、の気持ちを込めて囁くと、緊張にか強張っていたクロムの身体からは力が抜け、目に見えて元気を取り戻した。
 分かりやす過ぎる反応に、くすぐったいような気持ちが湧いてきてつい頬が緩む。
 このひとは、本当に自分のことが好きなのだ。そう感じることは、これまでのあれやこれやで傷付き、縮こまっていたルフレの心を、ぺしゃんこにされたスフレがまた膨らんでいくように浮立たせてくれた。
「どんな無理難題でも絶対叶えてみせる! むしろひとつなんて言わず、二つでも三つでも——とにかくいくつでもいいから、言ってくれ」
「……本当に、いくつでもいいんですか?」
「もちろんだ!」
 ルフレがおねだりしようとしている『欲しいもの』を知らないクロムは、力強く——とは言ってもルフレに抱き抱えられたままなので、ちょっと情けない構図なのだが——頷いた。
 これで言質は取ったと、内心ガッツポーズをしながら、クロムを抱く腕に力を込める。……流石に、これから万が一でも顔を見られたら恥ずかしいので。
 その動きがちょうど、未だささやかとは言え、絶賛成長中の柔らかい胸の谷間にクロムの顔を押し付ける形になり、彼の動揺レベルが跳ね上がったことをルフレは知らない。
 そして、旦那様の動揺レベルを天元突破させ、トドメを指す台詞を、顔を赤らめながら耳元へ囁き込む。
 
 
 ————…………私、クロムさんとの赤ちゃんが欲しいんです、と。

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