「…………………………本当に、すまん」
所変わってここは自宅アパート、時刻は夜も深まる午後十時前。
シングルベッドを二つくっつけて並べた寝室内で、クロムは深々と頭を下げた。
ちなみに、ベッドの上で膝をきちんと揃えた正座状態である。
クロムから今日何度目かの謝罪を受けたルフレは、ジト目でしょぼくれた旦那様を見遣り嘆息した。
(……まさか、あれでクロムさんが倒れちゃうなんて思いませんでした……)
数時間前、父——ファウダーの別邸の応接間で、自分を追いかけて来てくれたクロムから、結婚したにもかかわらず何故今までキス以上のことは何もしてくれなかったのか、その理由を聞いた。
普段の格好よさが行方不明になって、弱りきった様子で謝罪し、ルフレへの想いを訴え、それでもまだ家族でいさせてくれるかと縋るように告げたクロムに、ルフレはすっかり絆された。
募る愛おしさのまま彼を抱き締め、仕方がないから許してあげます、なんて、ちょっと偉ぶった風に言って。
それから、ルフレの欲しいものをいくらでもくれる、という言質をしっかり取ったところまでは良かった。
お話だったら何となくめでたしめでたしで終わりそうな雰囲気になって——けれど、彼との子どもが欲しい、と伝えたところ、クロムは目を回して倒れてしまったのだ。
「……具合が悪くなったんだと思ってすごく心配したのに、興奮し過ぎた所為だなんて、クロムさんのえっち」
「————っ! し、仕方ないだろう?! 俺はずっとお前に触れるのを必死に我慢してたんだ! なのにむ、胸は当たるし柔らかいし良い匂いはするし挙句俺との子どもが欲しいなんて言われたら……!」
「父さまも呆れてました」
「…………面目ない…………」
クロムはがばりと顔を上げて一度は猛然と反論しかけたものの、ルフレがファウダーのことを持ち出すと、がっしりした大きな身体を丸めて、しおしおと項垂れてしまった。
ここで父の名前を出したのは、クロムが倒れてルフレが慌てふためく中、インバースを従えファウダーが別邸に現れたからである。
色々あって(本当に、色々あった)事態がひとまず落ち着いた後、父は娘の説明の端々から、義理の息子であるクロムが倒れた理由を何となく悟ったらしく、本当にこの男でいいのかと、おそらく昼過ぎに喫茶店で話していた時とは違った意味で、何度もルフレに確認していた。
程なく目を覚まし、目の前に舅であるファウダーがいることに気付いて青褪めるクロムにぴたりと張り付いて、ルフレが離れようとしないので、最後には匙を投げた様子だったのだが。
「…………情けない男で、本当にすまん……」
インバースが運転する車で送り届けてもらう途中、ルフレはうつらうつらとしていて記憶があまりないのだけれど、彼は父の秘書にも相当けちょんけちょんにされたらしい。
帰宅してから順番にお風呂に入り、諸々の寝る支度をしている間もずっとこんな調子だ。
どよどよどよん、と効果音までつきそうな勢いで背後に暗雲を背負ったクロムをしばらく見つめ、ルフレは本当に仕方がないですね、と呆れを含んだ笑みを漏らした。
「本当ですよ。今日のクロムさん、いつもと違って全然格好良くないです」
「うっ……」
「————でも、格好良くないクロムさんも大好き」
囁くようにそう告げて、ぎゅう、と勢いよく抱き着く。
「っ、ルフレ……?」
しょぼくれてはいても、危なげなくルフレを受け止めた彼は、戸惑うようにしばらく両腕を彷徨わせた後、目線で催促するとおずおずと抱き締めてくれる。
大好きなひとの腕の中にすっぽり包まれる幸福をじっくり味わいながら、クロムと目を合わせて大事なことを伝えた。
「ねえ、クロムさん。私、すごく欲張りなんです。クロムさんが大好きだから、格好いいクロムさんも、格好よくないクロムさんも、優しいクロムさんも、ちょっと情けないクロムさんも、全部見せて欲しいです。だって……私たち家族で……夫婦、なんですから」
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