意識を失ってもルフレを貪り、醜い男の欲を注ぎ込み続けたクロムは、空が白み始め、大きな窓から仄かに明るい光が差し込む頃になってようやく、彼女を解放した。
寝室に行かず、長椅子の上でことに及んでしまった為に、周囲は酷い有様だ。
ルフレのほっそりとした肢体を美しく包んでいた青いドレスは、ずたずたに引き裂かれ、汗に塗れて最早着衣としての役割を果たしていない。
それを、纏わりついていた身体から取り除き身を清めてやる。
気の早い夏の朝陽に晒された彼女の全身には、あちこちにひどい鬱血痕があった。頬の涙の痕も相まって、光の中で見ると一層痛々しい。
いたたまれず、脱ぎ捨てていた自分のマントで包み抱き上げたが、それから隣の寝室へ移り、柔らかな寝台の上へ横たえても、頬に触れても、ルフレはぴくりとも動かなかった。
無理もない。彼女がクロムの目を盗み、<マーク>と会っているのだと知って、我が子にはクロムには見せない、以前のような穏やかで優しい笑みを向けているのだと知って、彼の中の獣は近年で一番、激高した。
そしてお前は俺のものだと、他の誰にも心向けることは許さないと叫ぶ本能は荒れ狂い、自分でも抑えることなど到底不可能で。
こんなに手酷く扱っては、ますます彼女の心は離れていくだけだ。そう、理性では分かっているのに、止まれなかった。
今から数年前、自分の子を身篭ったルフレを、彼女の意志など無視して閉じ込めた。もう二度と喪わないように。クロムの元から離れて行かないように。
それでも、僅かながら期待があったのかもしれない。二人の子供が、<マーク>が生まれれば、少しはクロムのことを見てくれるかもしれない、と。
けれど、どれほど時が経ってもクロムに与えられるのはあの夜と同じ、怯えと拒絶だ。
もう彼女はクロムの名を呼ばない。ただ陛下、とだけしか。それを嘆く権利など、自分にないのは分かっている。
誰より近しい半身。彼女にとってそれは恋情ではなく、あくまで友情に端を発したものなのだ。
純粋な好意を、寄せられる信頼を、完膚なきまでに踏みにじったのはクロムだった。
もう、ルフレがどんな風に自分に微笑みかけてくれていたのか、どんな声で自分の名を呼んでくれていたのか、思い出せなくなりつつある。
それでもルフレを手放せない。どんなに怯えられようと、涙を流してやめて下さいと懇願されても、彼女に印を付け、最奥までクロム自身を刻み付けていないと気が狂いそうになるのだ。
愛している。憎らしい。愛している。大切にしたい、優しくしたい。彼女を傷付ける何者からも守ってやりたい。
そうだ、大切にすると約束した。それは今でも変わらない。優しく、してやりたい。大切に大切に。
けれどクロムを見つめる瞳の中に、拒絶と怯えの色を見つけると、どうしていいか分からなくなる。ルフレの心が自分にないのを知っていて、ならばせめてと毎夜のように彼女を抱く。
その度に、一層心が閉ざされていくのを感じながら。
「ルフレ……お願いだ、ルフレ……。俺を、俺を見てくれ」
――――俺を、愛してくれ……。
かつて揺るぎない信頼を交わして、互いに背中を預け合い、戦場を駆け巡った日々はあまりに遠い。
歪になってしまった絆の荊で、自分の元に縛り付ける半身へクロムは縋り付いた。掠れた声で名を呼ぶ。
答えはない。ルフレは何も答えない。
意識を失うほど手荒く抱いたのだから当たり前だ。しかし愛する女の心が自分にないという事実は、彼の心へ荊の棘でぎりぎりと締め付けたような痛みをもたらす。
どうすればいいのか、クロムにはもう分からなかった。
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