Under the Rose第二部【サイト連載版】 - 21/22

 浮かび上がるように意識が覚醒して、始めにクロムが感じたのは目を閉じていても分かる眩しい日差し。それに柔らかな草の感触と青々とした緑の匂いだった。
 久しく感じることのなかったそれらに戸惑っていると、ふいに眩しさが和らぐ。かさりと音が鳴った。どうやら、誰かがクロムを覗き込んでいるらしい。これがならず者や野党の類であったなら大事だ。そう思うのに、彼の意識は少しもその気配を危険だと認識しない。
 妹のリズだろうか。だが彼女はもうフェリアに嫁いで随分と経つ。ならば娘のルキナか、と考えてそれも違うと思い直す。纏う空気がまったく違うのだ。聖痕の所為なのか、彼女の気配は分かりやすい。フレデリクやマークでもない。耳に届いた草を踏みしめる音は軽く、男のものではなかった。
 ならばあと自分が警戒しない人物、近しい人物と言えば誰だろう、とぼんやり考えながらゆっくりと重い目蓋を持ち上げ――――――クロムは息を呑む。

「もう、クロムさん、こんなところで寝てると風邪ひいちゃいますよ?」

 ルフレだ。ルフレが、いた。
 記憶の中の彼女と寸分違わぬ姿で、声で、ルフレはいつかの日の役割を逆にしたように、悪戯っぽい笑みを浮かべてクロムを見下ろしている。
 永遠に失ってしまったと思った彼女。その、笑顔。

「どうしたんですか、ぼーっとして。大丈夫ですか、立てます?」

 声も出せずにいると、笑みの中に少し案じげな色が宿った。
 ああ、これは夢なのか。それとも幻なのだろうか。
 だがクロムにとってはどちらでもよかった。

 目に痛いほどの蒼穹。
 その青を背景に、かつて反対の立場だった自分がしたように、やさしい微笑みと共に白くたおやかな手が差し伸べられる。
 クロムはそこへ迷わず手を伸ばす。

 三度失ったものを今度こそ離すまいと、手を伸ばす。

 手を、伸ばす――――――――――。

 

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