数多くの書物で語られるイーリス救国の英雄のひとり、ルフレ。
彼女の辿った足跡は実に様々な形で語られており捉えどころがない。
特にある一時期よりイーリスを出奔した後は、ほとんど記録に残されておらず、後年の歴史学者たちの悩みの種であった。
だがひとりの年若い学者が、その治世の後半、聖王クロムに仕えた宰相の手記を発見したことで事態は一変する。
多大な功績を残しながら、やはり謎に包まれていた若き宰相マークは何と彼女の息子だという。幼い頃、母と父に連れられて各地を旅した思い出を書き綴ったその記録によって、空白だったルフレの後半生は明らかになったが、同時に大きな物議を醸し出した。
――――宰相の父とは一体何者なのか?
これまで明らかになっていたところでは、ルフレはイーリスを離れるまで独身であった筈である。恋人がいたという話も伝わっていない。
残念ながら父親だという男に関して、宰相は多くの筆を割いておらず、様々な可能性が議論されたが平行線のまま終わり、結局は英雄ルフレに纏わる多くの謎のひとつに新たに頁が付け加えられるだけとなった。
ただ、宰相が聖王と同じ深い藍色の髪と瞳を持っていたこと、聖王が公私共に彼を信頼し、また我が子のように年若い宰相を可愛がったこと。臨終の際にも我が子と同様に彼を呼び寄せ、その死を看取らせたこと。
そして、宰相が初めてイーリス城に現れた時、己が身の証を立てる為にと差し出した母の形見である青い耳飾りが聖王の棺に収められていること――これらの記述が、ただ断片的な記録として後世に伝わるのみ。
中にはそれらを元に想像を逞しくした者もいたようだったが、今となっては確かめる術はなく。
真相はすべて、遠い歴史の彼方である。
under the rose ―完―
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