夫婦になるまで6 - 3/6

 

 車は、墓地があった市の郊外を離れしばらく走り続けると、人家はぽつぽつ点在するくらいで、あとは豊かな森林ばかりというエリアに差し掛かった。
 すれ違う対向車はほぼ皆無に近く、車の静かなモーター音だけが響く中、要領を得ないルフレの『独り言』を壁(?)越しに辛抱強く聞いてくれた父の秘書は、あっさりとこう言い放った。
「————それでぇ? カレにあなたの子どもが欲しいから抱いて、ってちゃんと言ったの?」
「ッ?! そ、そそそ、そんなこと言えるわけないじゃないですか!!」
「あらぁ、独り言にお返事しちゃダメよぉ」
 あまりに直截的な言葉に、ぼんっ、とゆでだこ状態になったルフレを、運転席からインバースが嗜める。……独り言に反応しているのはお互い様だと思うのだけれど、激しく動揺しているルフレにそこをツッコむ余裕はない。
「あなたはカレが好きでぇ、家族になりたいのよね。当然その『家族』には将来できるカレとの子どもも含む、ってあなたは考えてるわけだけどぉ……その辺り、二人でまだ話していないんでしょう?」
「それは……えっと、はい……」
 クロムからはルフレの『家族』になりたい、とプロポーズされたけれど、子どものことについてはまったく話していなかった。
 新居のこと、彼の新しい仕事のこと、ルフレが通う学園のこと、その他日常の細々としたことは話題に上ったが、ルフレ自身が学生のうちは子どもはまだ早い、と思っていたのでクロムも同じだろうと決めつけていた。
「そうすると、カレは誤解してる可能性もあるわよねぇ」
「誤解……?」
「誤解というか、思い込みかしらぁ? あなたの話を聞く限り、今時珍しいくらいの硬派な男みたいだし。母親を亡くしたばかりで弱ってるあなたが、寂しいから自分に依存してるだけって思えば、なかなか手は出せないかもねえ」
「そんなことありません! わ、私クロムさんのことが大好きなんです! 母さまのことがなくたって、絶対絶対、結婚してましたっ!!」
 思っても見なかった可能性を指摘されて、ルフレは憤慨した。
 もし本当にそんな風に思い込んでいるのだとしたら、クロムは馬鹿だ。
 確かに、母を亡くして悲しみに暮れている時に新しい家族になると言ってくれて嬉しかったけど、たとえ母が健在でも、彼がプロポーズしてくれたら一も二もなく頷いてた。
 だって、本当にクロムのことが大好きなのだ。お互いおじいちゃんとおばあちゃんになっても、ずっと大好きでいられる自信がある。
 ルフレはまだお酒も飲めない子どもで、幼い恋だと笑う人も多いだろう。そんなことを言っても、そう遠くない将来、絶対心変わりすると。
 でも、ルフレの特別な『好き』はとっても重たいのである。娘のことを一番よく分かっていた母のお墨付きだ。
「はいはい、そこをちゃーんとカレに伝えなきゃダメよぉ、って話でしょ。ま、他の理由があるかもしれないから、一度面と向かって聞いてみるのねぇ」
「うっ……」
 頬を栗鼠のように膨らませて、目の前に分からず屋の旦那さまがいれば食ってかかりそうな剣幕だったルフレは、ガラス越しに聞こえてきた呆れを含んだ声に、目に見えて勢いを無くした。
 空想上のクロムに文句を言うのと、実際に彼と向き合うのは天と地ほども差がある。
 そうこうしている内に、煙突付きの瀟洒な邸宅が見えて車が減速し始めたのだが、そこで豊艶な外見に反し意外と世話好きらしい父の秘書は、とんでもない爆弾を投げつけてきた。
「まあ、いざとなったらカレのこと、押し倒してみればいいんじゃなぁい? あなたのお母さまみたいに」
「………………………………え……ええっ?!」

 

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