見知らぬ恋人 - 3/6

 クロムは、ルフレの恋人らしい。
 らしい、と言うのはルフレ自身にはその記憶がないからで、今のルフレにとって、彼はほんの数日前に見知った貴族男性にすぎない。
 イーリスの貴族と名乗ったクロムが説明してくれたところでは、ルフレは恋人である彼の屋敷に馬車で赴く途中、事故にあって崖から落ちひどい怪我をしたのだそうだ。
 高熱が続いて意識もずっと戻らず、一時期はかなり危なかったらしい。やっと目覚めた時には、恋人である彼のことも、自分の名も、何も覚えていなかった。
 すぐ医師に診てもらったが、記憶がないのは、崖から落ちた際に頭を強く打ってしまったのが原因だろうとのことだった。
 一度に多くのことを聞かされて混乱するルフレに、クロムは優しかった。
 ルフレが目を覚ましたのは、彼が所有する屋敷のひとつだという。普段は屋敷を管理するのに最低限の使用人しか置いておらず、年配の者ばかりだそうなのだが、ただでさえ記憶がなく不安な中、それでは気詰まりだろうと、近い年頃のユーラを話し相手兼侍女として雇って側に付けてくれた。
 しかも、城での仕事の後は毎日様子を見に来てくれるのだ。
 それだけでなく、記憶を失ってしまった恋人を決して責めず、体調を気遣い、他愛のない話をしてルフレの気持ちを和ませてくれる。
 彼は決して口数が多い方ではないのだが、不思議と交わす会話はとても楽しく、ほんの数日で、ルフレはいつの間にかクロムの訪れを心待ちにしている自分に気付いていた。
 

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