幸せはすぐそこまで(クロルフ♀)
「お前にも苦手なものがあるんだな」
時々唸りながら編み棒を動かすルフレを、後ろから覗き込んでしみじみとクロムが言った。
「当たり前じゃないですか。お化けだって苦手ですし、虫だって……」
「いや、それは知ってるが。お前はこう……何でも器用にこなすだろう? 初めてすることでも覚えが早いから、苦戦してるのが珍しくてな」
第一子懐妊中のルフレを気遣ってしょっちゅう様子を見に来てくれる旦那様は、行儀悪く長椅子の背もたれを乗り越えて隣にどかりと腰掛ける。
「あまり根を詰めると、身体に障るぞ。人に頼んでもいいんじゃないか」
「でも……ちゃんと自分で編みたいんです。だって、クロムさんと私の新しい『家族』のためですから」
微笑んでそっと囁くように告げれば、逞しい腕に優しく抱き寄せられた。お日様のにおい。それを胸いっぱいに吸い込んでルフレは目を閉じる。
やっと片方だけ出来上がりつつある赤ん坊用靴下。編み目ががたがたで恥ずかしいのだけれど、少しずつ形になっていく度、幸せが近付いてくるようで作業はちっとも苦にならない。
早く元気に生まれてきてくださいね、と心の中でお腹の子に語りかけると、ルフレの意を察したように、クロムの大きな手が愛おしそうに膨らんできた腹部を撫でた。
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