恋文(クロルフ♀、マーク)
「いやー、父さんがこんなに筆まめだったなんて知りませんでしたよ」
旅先から姉弟揃って里帰りした息子は、机に束になって積まれている手紙を見て呆気にとられたような、感心したような表情でそう言った。
手紙はルフレへ、という伸びやかでありながら意外とかっちりしている、見慣れた筆跡で綴られた一文で始まっている。七日間で既に十通以上、すべて視察先のクロムからの手紙だ。
彼が視察へ出発する間際、妊娠初期で精神的に不安定だった所為かルフレが泣き出してしまったので、随分心配させてしまったらしい。
それは申し訳なかったし今でも思い返すと猛烈に恥ずかしいのだが、いくらミリエルが開発した伝書梟でやり取りできるとはいえ多すぎると思う。
――――旅先だからというのもあるかもしれんが、ひとり寝は落ち着かないな。早くお前のところへ帰りたい。
手紙の内容は身籠っているルフレの身体を気遣うものが大半で、あとは今日はどの街に行ったとか、どんなものを食べたとか、他愛のない話も少しある。その中にふと混じる美辞麗句とは無縁の素直な言葉は、ぽっかり穴が空いたようなルフレの寂しさを優しく抱き締めてくれるのだった。
愛されてますねえ、と冷やかすマークを軽く睨んで手元を隠したルフレは、私も早くクロムさんに逢いたいです、と思いを込めて返事を綴る。
これ以降、クロムは何らかの事情で妻を伴わず遠出をする場合、実に細やかに彼女を気遣う手紙を送ることになる。取り交わした数多くの手紙は、聖王クロムと聖王妃ルフレの愛を物語る恋文として後世の歴史学者に『発見』されてしまうのだが。それは現時点の二人にとって、預かり知らぬことである。
※コメントは最大1000文字、5回まで送信できます