失楽園 - 3/7

 ……あのね、何回も同じような話を聞いて退屈じゃない? わたし、最近はほとんど誰ともお話していないから……上手に喋れているか分からないし、兄さまにもよく言われるの。女の人はどうして同じ話を延々と繰り返すのか、退屈であくびが出てくるって。
 …………大丈夫だからもっとお話してほしい? わたしの兄さまたちのことも? ……そう? なら、えっとね……。

 わたしのきょうだいは五人。
 わたしと一番歳が近くて意地悪なユリウス兄さま、無口なテオドル兄さま、社交的で女の人が大好きなエクトル兄さま、それに両親が同じきょうだいの中では一番上の<マーク>兄さまに、<ルキナ>姉さま。
 あ、<ルキナ>姉さまはわたしとお母さまが違うから、本当は姉さまってお呼びするのもいけないの。でも今はあなたとわたしだけだから……許してもらうわ。え? だって、嫌でしょう? 自分のお母さまからお父さまを奪ってしまった女性の子供に、『姉さま』って慕われるなんて。
 そんなことも、あの部屋から出たばかりのわたしはよく分かっていなかった。
 そう、五つの誕生日をお祝いしてもらった後、わたしはそれまでのように母さまと一日中一緒にはいられなくなって、用意された別のお部屋に移ることになってしまったの。
 曲がりなりにも王女として生まれたわたしが、いつまでも鳥籠の中に居続けるわけにはいかなかったみたい。
 母さまは色々なことをわたしに教えてくれたけれど、あの部屋から出られない母さまには無理なこともたくさんあった。
 わたしは本当に直前になってそのことを知ったから、母さまと引き離されたくなくてわんわん泣いて、母さまはもちろん、父さまやフレデリク、侍女たちが総出で宥めてくれても、母さまにぎゅってしがみついて絶対動かなかった。
 それで結局、週に一度、お勉強を頑張れば母さまに会いに行ってもいいことになって……それでようやく、渋々、本当に渋々、母さまとお別れしてあの部屋を出たの。
 その日に初めて兄さまたちと顔を合わせたんだけど、泣きじゃくって顔を涙でぐちゃぐちゃにしたわたしを見て、ユリウス兄さまがなんて言ったと思う?! 『おもったったよりブサイクだな』よ!! 傷心の淑女に対してその言い草はないと思うの!! 
 ……まあ、ユリウス兄さまからしたら、自分は一度も会ったことがないのに妹がずっと母さまを独占していて、その妹がちょっと母さまに会えなくなったくらいで自分にだけ世界の終わりが来たみたいな顔をしていれば不快に思うのも無理はないかもしれないけど!
 ……コホン、ちょっとはしたなかったわ、ごめんなさい。
 ユリウス兄さまはそれからもずっと意地悪だったけれど、他の兄さまたちはわたしに優しくしてくれた。
 母さまがどんな人か、どんな風に話して、どんな風に抱きしめてくれるのか。幼いわたしに母さまのお話をしきりと聞きたがった兄さまたちは、父さまにあの楽園に入ることを始めから許されなかったのだと、やっぱりわたしは気付かなくて。
 無邪気に、母さまがどれだけわたしを愛してくれたか話すわたしは、今思うととてもイヤな子だったと思うのに、幼いわたしに周りの悪意や噂話が届かないよう、わたしが信じていた『幸せな家族』の虚像を壊さないよう、できる限り守ってくれたの。
 具体的には? ……ほら、母さまが父さまの側室だとか、<ルキナ>姉さまのお母さまから、父さまのことを奪ってしまったとか……そもそも母さまは昔から父さまの愛人で、軍師っていうのは側に侍らせるための隠れ蓑だったとか、そういう噂話。
 貴族たちは皆好き勝手にわたしたちきょうだいを品定めして、誰が利用しやすいか、担ぎ上げたら旨みがあるか、見えないところで色々動き回って……。母さまそっくりで、父さまに一番可愛いがられていた幼いわたしは、狼の前に飛び出した子うさぎみたいに格好の獲物だったから、しばらくはどこに行くのも、誰と会うのも絶対兄さまたちの誰かが一緒だった。
 一番一緒にいてくれたのは……多分、<マーク>兄さまだったかしら。
 <マーク>兄さまは兄さまたちの中で一番頭が良くて、優しくて、わたしを特別に可愛がってくれた。
 あのね、実は小さい頃、母さまにも会ったことがあるんですって。内緒ですよ、って母さまそっくりの仕草をしながら教えてくれたの。
 ……頬に大きな傷がある男の人に、母さまが時々散策していたお庭へこっそり入れる抜け道を教えてもらって、父さまに見つかってしまうまでの短い間だけれど、母さまと楽園にいるみたいに幸せな時間を過ごせたんですよって。
 

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