常緑樹が鬱蒼と葉を茂らせる森を抜けた場所に佇む館を遠目に認めた青年は、足元に積もった葉を踏む微かな音さえ発さぬよう神経を尖らせつつ、長く重たく息を吐く。
(見つけた……!)
ようやくだ。ペレジアで別れ別れになってからのこの数ヶ月、母の友人でもある呪術師の女性に力を借り、方方手を尽くして探し求めた人物の行方を、ようやく突き止めた。
ペレジアで帰りを待っている乳飲み子のためにも、一刻も早く連れ出したいと気は急くが、まずは現在どのような状況に置かれているのか確かめるのが先決だろう。
これだけの期間、生まれたばかりの赤子を放っておく人ではないから、自力で脱出できないか、外部と連絡を取ることさえできない状態である可能性が高い。
青年は無言のまま、黒い外套の隠しから小さな袋を取り出す。ゆっくりと摘み出したのは青い耳飾りだ。ただし、片方だけ。
台座の部分は何度も手に取られた所為か既にくすんでおり、そう高級なものではないと見て取れる。けれど小さな青い石の吸い込まれそうな輝きは、何かを――『誰か』を彷彿とさせた。
これを見つけた時、自分を打ちのめした感情は、とても一言では言い表せない。
(……あなたは、今でもあの人を愛しているんですね……なら、もし……)
遠くに見える館にいるはずの、誰より何より慕わしいひと。
その人が薔薇の茂みの下に埋めた秘密を思い、青年――マークは耳飾りを握りしめ、叫び出したいような泣き出したいような衝動を必死に堪えていた。
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