それは偽りの、 - 1/5

 一夜明けると、あいにく空は分厚い雲に覆われ今にも雪か雨が降り出しそうなぐずついた天気だった。
 天候が崩れなければいいんですけど、と連日馬でやって来ては見舞ってくれる恋人を思って、ルフレは寝台に横たわったまま物憂げなため息をついた。
 曇り空の所為ばかりでなく、ルフレの心は晴れない。理由はいくつかある。
 昔の夢を見たと思しき昨日の朝から何かを訴えるように胸が苦しく、なのに夢の詳細を思い出そうとしてもぼやけて何も掴めないこと。
 恋人のクロムが本当は妻帯していて、ルフレとは道ならぬ関係なのではないかということ。
 なのに彼への想いは日毎に大きくなるばかりで、それが真実だとしたら離れるべきだと思うのに、何故かいつも本当のことを確かめられない自分への嫌悪感。
 そして、何より――――。

(……昨夜のクロムさん……様子がおかしかった、です……)

 ルフレの顔色を曇らせているのは、昨夜遅くに顔を合わせた恋人の様子だった。
 寝起きだったからか、途中から妙に記憶がぼやけているのだけれど、明らかにクロムが纏う空気、醸し出す気配はいつもと違っていた。
 ひどく思い詰めた……何かを、恐れているようだった、彼。室内が薄暗く、表情がよく見えなかったからそう感じたのだろうか。

 優しくて、とてもあたたかいひと。
 クロムと過ごす時間は彼に抱く印象と同じで、決して饒舌な人ではないのに一緒にいられるだけで幸せで。
 怪我が快癒せず、部屋から一歩も外に出られないことも相まって、どこか外界から隔絶された箱庭の中にいるようだった。
 その中に留まっていれば、ただ彼を愛して、彼に愛される、幸福な夢に浸っていられると、自分を錯覚させられそうな。
 でも、時折箱庭を軋ませる『何か』の存在を感じていなかったと言えば嘘になる。
 その『何か』が、昨夜から急激に力を増したように思われて、ルフレはざわつく心を宥めるように、胸の前で両手をきつく組み合わせた。

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