それは偽りの、 - 3/5

「……な、困……ます! 今は……中で……」

 話はすぐ済むだろうと思ったのに、ユーラが珍しく強い焦りを滲ませ扉の外で誰かと押し問答をしている。
 途切れ途切れに聞こえてくる話し声の片方が、やはりクロムのものに酷似しているように感じられ、そこまで彼が恋しいのかと自分に呆れたところで――やや乱暴に、音を立てて部屋の入口が開いた。
「えっ、く、クロムさん……?!」
 思いがけず現れた恋人に、ルフレは一瞬、自分の格好を忘れて驚きのあまり呆けたようになってしまった。
 
(ど、どうしてクロムさんが……? 今の時間はお仕事、ですよね? 服装もいつもと違って何だか立派で、位が高い人が着ているようなものですし……。もしかして私、クロムさんのことを考えすぎて夢でも見ているんでしょうか……)

 誰かを強く恋すると、その人が夢の中に現れ出ると聞く。もしそうだとしたら、随分精緻な夢だ。
 頭の中でそんな思考が所在なく浮かび上がってくる一方で、動揺はルフレを敷布の上で縫い止めたようにして次の動作を忘れさせている。
「あ……っ!」
 ようやく自分の状態を思い出したのは、大股で寝台へ近付いて来たクロムが無言のままルフレを強く抱き竦めてからだった。
 彼の温もりと、普段とは違う衣服の布地の感触をほとんど直に素肌で感じることになり、全身が熱くなる。
 恋人同士、なのだから。ルフレが大怪我を負う前は情を交わしていたのだろうし、当然素肌だって見られたり、触れられたりしていたはずだ。嫌悪感はないものの、強い羞恥と、戸惑う気持ちは隠せない。
 勤めの最中であるはずのクロムが、まだ陽の高い時分に突然現れた理由もまだ分からない。
 応対に出たはずのユーラも戻って来ず、正体の分からぬ不安がざわざわと耳元でうるさい中、ルフレはやっとのことで言葉を紡いだ。
「……あの、クロムさん……? 何か、あったんですか? 昼間はお勤めのはずじゃ……」
「…………」
「えっと……私、ユーラに軟膏を塗ってもらったばかりで、薬草のにおいがきついと思うんです。ふ、服もまだ着てないですし、だから、何か大事なお話があるなら一度着替えますから……その……っぁ……!」
 離してほしい、と伝える前に甘く短い吐息のような喘ぎが、小さくルフレの口から漏れる。
 クロムの唇が、ルフレのむき出しになった首筋をきつく吸ったのだ。それは、まるで己の所有物が奪われぬよう、印を付けるような行為で――明らかな、劣情を感じた。これまでの彼の触れ方とはまったく違う。
 クロムは今までその優しくあたたかな笑みと同じ、労りに満ちた仕草で触れ、口づけを受け入れることを躊躇うルフレに、決して無理強いはしなかった。
 なのに今、クロムはとても一度では満足できないというように、何も言わずルフレを抱いたまま、幾度も行為を続けていた。傷口が傷まないような位置に腕を回してはくれているけれど、息苦しいことにかわりはない。

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