彼の話をしている君の横顔がとても綺麗だと思った。
だから、結末は最初から分かっていたのかもしれない。
*
「お前は馬鹿だなあ」
それが、ソールの従兄の口癖だった。
「もう少しずる賢く立ち回ったって、バチは当たらないぞ?」
呆れたように、そして困ったものだと言いたげに、どこか皮肉っぽい笑みを浮かべる。
だが決して責めている訳でも、言葉のとおり小馬鹿にしている訳でもなく、従兄なりにソールを案じてのことだった。
何しろソールは人が良かった。良すぎるほどに良かった。
他の人間の表情や、ちょっとした仕草から何となく考えていることが分かったので、困っていそうであれば先回りしてさり気なく手助けし、友人同士が険悪になっていれば両者の間に入って仲裁役を務める。
自警団に入ってからも、備品の補充や武器の手入れ等を、誰に言われるでもなく率先して行っていた。
頼まれれば、自分の予定よりそちらを優先してしまうこともあった。
さらに従兄からいつもの口癖が出る頻度が最も高いのが、ソールの色恋沙汰だった。
何しろソールは、恋愛面において脅威の失恋率を誇っているのだ。
初恋は十二歳、実家の薬屋で少しずつひとりで店番を任されるようになった時。
その頃店には、色白で、妖精のように華奢な女性が頻繁に薬を買い求めに来ていた。
年齢はおそらく二十歳前後だろう、大粒の翡翠を思わせる緑の瞳が印象的な美人である。
まだ声変わりもしていなかった子供であるソールが、カウンターに隠れないよう、背の高い椅子を引っ張ってきて腰掛け店番をしているのを微笑ましく思ったのか、色々と話しかけてくれるようになった。
「お家のお手伝いをして、偉いわね」
会う度に鈴が鳴るような声でソールを褒め、ほっそりした、繊細なレース刺繍の付いた手袋をはめた手で頭を撫でてくれた。
カウンター越しに香水だろう、控え目な鈴蘭の香りがふわりと鼻腔をくすぐって、幼いソールの胸をときめかせた。
けれど子供の淡い初恋は、石鹸水で作るしゃぼんより呆気なくしぼんでしまうことになる。
彼女が薬を買っていく相手、とても優しい方だから早く良くなって欲しい、と話していたのが実は男性で、その男性と結婚してしまったのだ。
性別をはっきりさせるような話をしなかったので、ソールは勝手に彼女が恩義のある女性だと思い込んだのだ。
それどころか、彼女がその人の病状を語る表情がとても苦しそうで、悲しそうだったから、せっせと聞き取った症状に合う薬を調合して、この薬を飲めばすぐ元気になりますよ、といっぱしの薬屋を気取って励ましまでした。
後日、事の次第をソールから聞き出した従兄は、そこで『お前は馬鹿だなあ』というお決まりの台詞を深々とした溜息とともに吐き出したのだった。
出だしが悪いとその後も運が向いてこないのか、初恋が儚く消え去って以降、ソールの恋は玉砕し続けた。
人当たりはいいので、友人としてはそこそこの……いやかなりいい線まで行くのだが、何故かそれくらい親密になる頃には、相手から恋愛相談を持ち込まれてしまうのだ。
もちろん、相手はソールではない。
他にも、見かねた友人が、お前に合いそうな気立てのいい子を、と紹介してくれたのだが、何回か会っている内に何故か紹介してくれた友人と付き合いだした。
その度に従兄は呆れ、ソールはがっくりと肩を落とす。
自警団に入る頃には、自分に恋愛は向いていないのだと、半ば諦めつつあったソールだが。
そんな彼にも、再び春はやって来た。
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