What a beautiful tomorrow 予告編

――――それは、終わりと滅びの象徴たる竜が戯れに仕掛ける遊戯。

「さあ、マーク。あなたの欲しい女王(クイーン)はここ。残るのは騎士(ナイト)や僧侶(ビショップ)、力のない兵士(ポーン)ばかりですが隙なく固まっていてなかなか厄介ですね……。どう攻めますか?」

 女に問われた聖王国の王子と同じ名の少年は、闇色の空間に浮かぶ盤面に無慈悲な一手を打つ。王(キング)のいない、始めから勝敗の決した勝負を続けるも、飽いて即座に終わらせるも、すべて彼女次第。
 かつてルフレと呼ばれていた女、今はギムレーとしてより多くの絶望を求める邪竜の化身の意志ひとつ。

「私は、絶対に諦めません。負けない……負ける訳にはいかないんです」

 最後の希望、と人々は彼女をそう呼ぶ。志半ばで斃れた英雄の娘、神剣と聖痕を父王から受け継いだ王女。けれど皆が笑って暮らせる明日を取り戻す為、亡き父の形見をその細腕で振るい続ける少女を憂う少年がいた。

「僕は明日なんて来なくていい。あなたを喪うかもしれないなら、永遠に今日が、この灰色の世界が続いていけばいい」

 赦されない想いを秘めた少年は、母と同じ顔をした悪魔の囁きで闇に身を堕とす。願うのは、求めるのは。ただ姉姫を、『世界の救い主』たる使命から解放すること。

「……気付いていたか? 屍兵たちはもうこれ以上は防ぎきれないと思うぎりぎりまで攻め込むと、いつも波が引くように退却してしまう。何度も、何度も、何度もだ。そして体勢を整え直した頃にまたやって来る。まるでこちらのことなど、いつでも好きな時に潰せると言わんばかりに」

 空が本当はどんな色をしていたのか、人々が忘れてしまった世界で。  遺された子供たちは亡き両親を思い、失われゆく命に自らの無力さを噛み締めながら、世界を苛む絶望と忍び寄る終焉へ必死に抗う。
 しかしそれすら、終わりの竜の手の上で踊っているだけなのだと思い知らせるように、四色の宝玉を求めて各地に散った彼らの前に現れたのは――――。

「……どうして……どうしてよ?! あんなに神様を信じてたのに、神様の為に戦ってたのに、何で神様のいる天国で寝てないでこんなとこに出てくるのよ……父さんっ!!」

「チキさん……ではないのですね。でもンンとチキさん以外に竜に変化できる誰か、なんてもういない筈です。ンンのお母さんは、ンンがずっと小さい時に死んでしまったのです。でも。なら、ならあの竜は……」

「……くっ、あの疾風のごとき身のこなし、只者ではないな! 母より聖なる血を受け継ぎし、この聖戦士ウードの相手にとって不足なし! 姿を見せろ臆病者、め……っ?!」

 死者は炎で焼き尽くさねば屍兵として蘇る。まことしやかにそう囁かれるようになったのはいつからだっただろう。
 亡骸に縋る家族の、友人の、恋人の懇願を跳ね除けて命の火が消えた身体を焼き続けても、各地で人側の拠点を襲う屍兵の数は減ることはなく、むしろ増えるばかりだった。

 ある時から、そこに更なる絶望的な要素が加わる。
 仮面の剣士。
 並の者では太刀打ち出来ないほど、凄まじい剣技を振るうその剣士の登場によって、人々の絶望は加速する。

「ふふ……堪え性のない人。いいですよ、ご褒美です」
 
 血塗れで戻った剣士と濃密な口付けを交わしながら、陶然とした表情で女は仮面を外す。その下から現れたのは、盤面から欠けていた筈の駒。
 邪竜の贄として多くの者が捧げられた祭壇で獣のように男と睦み合い、快楽を貪る女はどちらの名で呼ばれるべきなのか。

「ルキナ、あなたにはこの先とても辛いことが待っているかもしれない。でも迷わないで。その時が来ても絶対に、躊躇ってはだめよ」
「チキ、さん……?」
「それがルフレ……あなたの母親が望んでいること。彼女の願いを叶えられるのはあなただけ」

 かつて最愛の半身をその手で殺め、女は絶望の中、邪竜の器として食い尽くされた。もはや僅かな意志とて残っておらず、盤面の遊戯に何ら影響を与えるものではない。確かにそう、思っていた。

 人の意志は、神とも等しき竜の力より毅いのか?
 やがて訪れる運命の時、交錯する様々な思惑が、秘されていた真実が、人と竜の戦いに思いもよらない結末をもたらす。

 
「あなたの涙も迷いも憂いも全部僕が連れて行きます。だから、あなたは正しく皆の光であり続けて下さい。それが僕からあなたへ贈る、最後の……」

 
 これから語られるのは灰色の空の下、明日への希望を胸に絶望へ最後まで抗い続けた十二人の子供たちの英雄譚。

 歴史から抹消された十三人目の名を知る者は、誰もいない。

 ――――この青空を、あなたにも見せたかった。

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