わたしたちのだいすきなもの - 4/4

「おい、ルフレ、どうし……

 幼い姉弟を呼びに行った筈の妻が戻らないので、子供部屋まで迎えに来たクロムは彼女の背に声を掛けようとした。だが振り返ったルフレが、しぃ、っと唇に人差し指を押し当て、静かに、という仕草をしたので(しかしもう三人の子持ちとなったのに、こんな子供っぽい動作をしても彼女は愛らしい)、慌てて張り上げかけた声を抑えた。

「(……どうしたんだ『マーク』達は)」

 今度はひそひそと問い掛ければ、視線で長椅子の向こう側を示される。子供たちが転んでも怪我をしないよう、毛足の長い絨毯が敷き詰められたところに丸まった二つの物体。少々わんぱくな子供たちが走り回れるくらい広いそこに芋虫のように丸くなって、寄り添うようにしているのは呼びに来た当の双子の姉弟だった。すぐ脇には、紙と色鉛筆が散らばっている。

「(疲れて寝ちゃったみたいですね。ふふ、昨日はだいぶはしゃいでましたし、このまま寝かせてあげましょう。おやつは、また明日ということで)」

「(ああ、そうだな。だが、この時期でも何か上に掛けてやらんと、風邪をひいてしまうぞ)」

 そう囁いてクロムはできるかぎり足音を立てぬよう、そろりそろりと室内を移動して上掛けを手に取った。麻で織られたもので、通気性がいい。これならば、暑すぎて途中で蹴飛ばし、腹を冷やすということもないだろう。

 ふわりとこれまた慎重に、起こさないよう注意して二人の上に掛けてやる。裏返されたままの紙は昨日話に出ていた家族の絵か。気になったが、完成するまで秘密だと言っていたので後の楽しみにとっておく。

 ルキナがいた世界と異なり、男女の双子として生まれてきた『マーク』たちは口元を緩ませ、気持ちよさそうな寝息を立てていた。

 妻のルフレに対して感じるのとは異なる、心の内に温かなものが灯る心地がして、クロムも思わず微笑んでしまう。それはルフレも同じだったようで、クロムが彼女の元まで戻るとそっと身を寄せてきた。

 そんな妻を抱き寄せ、互いに視線を交わす。それだけで、伝わる想いがあった。一度、室内を振り返って、幼い姉弟が幸せな夢の世界で遊んでいるのを再度確認してから静かに扉を閉める。

……クロムさん、私、戻って来られてほんとうによかったです」

 しばらく廊下を進んでいると、ぽつりとルフレが呟いた。すぐには答えずに、彼女を抱く腕に力を込める。確かにそこにある愛しい彼女の温もり。甘い香り。

 このまま食堂へ戻れば、双子の誕生日に間に合うよう帰郷したマークやルキナの旅先での話が聞けるだろう。特に、ルキナはウードと共に珍しい剣を見つけた、と言っていたから面白いみやげ話を披露してくれるに違いない。それを、『姉』に憧れている<ルキナ>が目を輝かせて聞き入るのは毎度おなじみの光景だ。

 夕餉が近づけば、寝ている時はただただ天使のように愛らしい姉弟は、むくりと起きだし城内を駆け回って、また一騒動起こすかもしれない。けれどそんな騒動すら幸福の象徴のように思えてならない。……すべて、ルフレがギムレーをその手で倒し消滅した後、再びこの世界に、クロムたちのもとに帰って来てくれたからだ。そうでなくては、今頃彼にとって世界は絶望の色に染まっていた。

……ルフレ)

 クロムの半身。恋しい妻。最良の相棒で、最高の軍師。

 そんな奇跡のように稀有な存在を失わずに済んだことを感謝しながら、クロムは「……それならもう、どこにも行くなよ」と囁いて、掠めるような口付けを落としたのだった。

 

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