No fear - 3/3

 クロムからそっと差し出された赤ん坊を、ルフレは恐る恐る腕を伸ばして抱き取った。存外重く、また湯浴みの直後のようにやけに体温が高いので驚く。

 愛するひととの子供というのは、それだけでひどく愛おしい。けれどだからこそとても怖かった。この、不吉な印が浮かんだ手でクロムとの子を抱いてしまうのが。

 それなのに、赤ん坊はルフレの腕の中で、まるで世界一安全で安心できる場所を見つけたと言わんばかりの顔で笑うのだ。そして、小さな、本当に小さな手でルフレの寝間着の布地をぎゅっと握る。

 視界が霞み、ルフレはクロムに抱かれて嗚咽を漏らしながら記憶の中の母に呼び掛けた。

(母さま……母さまもこんな気持だったのですか? だから……ひとりでずっと私を守ってくれたの……?)

 腕の中の温かな重みに、尽きることのない愛おしさが後から後から溢れてくる。同時に、守りたいと――守らなくてはならないという、強い気持ちも。

 これまでずっと何からも逃げてばかりだった。クロムからも一度は離れようとした。こんなにも大切なのに、彼のことが恋しくて堪らないのに、そんな彼を失うことに怯えて。

 けれどクロムが言ってくれたように、もう自分はひとりではない。何もできずに母を死なせてしまった無力な子供ではないのだ。だから――――

(私が……私達が、あなたを守りますからね。『ルキナ』……

 女の子ならこの名前にしましょうと、クロムと二人で決めていた名で我が子へ呼び掛けながら、この日母となったルフレは、かつての自分の母と同じように何があっても自分の娘を守ると誓っていた。

 ……その誓いは、やがてルフレが『真っ暗闇みたいに怖いもの』に喰らいつくされることで結局果たされることなく終わるのだが、この時の彼女にはまだ知りようもないことだった。

 ――――ねえルキナ。あなたには、怖いことなんて何も起こらないように。絶対に守りますから……

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