(そういえば大きくなった私の旦那さまの、『でりかしー』がなくてぶっきらぼうで、ってちょっとクロムさんにも当てはまりますよね……って、ないない! ないですない! 確かにクロムさんは色々私のことを気にかけてくれますし、結構頼もしいところがあるひとですけど、女の子の扱いはちょっとどうかと思いますし!)
どうして成長した自分がすごく幸せそうに話してくれた『旦那さま』の特徴から、クロムのことなんて連想してしまったのだろう。
そう、彼は『でりかしー』がない。ぱらぱらと、ルフレは日記帳をめくった。アスク王国に来てからの日記には、毎日少なからず濃い青髪の少年が登場している。読み返すと改めてそれを実感してしまって、誰に対してなのかは分からないが何だか言い訳をしたいような気持ちになった。
「あ、あった……。ほらこの日、訓練で足をくじいてしまった時だって、ちょっとどうかと思う言い草でしたし。……私のことをおぶって合流地点まで連れ帰ってくれたのは感謝してますけど……」
一週間ほど前、ろくな食料や水も持たないまま仲間とはぐれてしまったという想定で、二人一組に分かれ合流を目指すという訓練を行った。
ルフレはクロムと組み、太陽の方角で進むべき道順を判断しつつ水場を見つけて水を確保したり、食べられる野草や果物を見極めて採取したりしながら途中までは順調に進んでいたのだが。
森に放たれた訓練用の魔獣を二人で撃退する際、攻撃を避けそこねてルフレが足を挫いてしまったのである。合流地点まであと少しだったので、クロムが背負っていってくれるとはなったものの。
――――わ、私重いですし、あと少しですから自分で歩けます。
――――俺は鍛えてるから、多少重くても大丈夫だぞ。
――――そこは一応重くないって言うところですよね……?!
まず初っ端からこうだ。重いから、と言って辞退しようとしたのは確かにルフレ自身なのだけれど、そこはこう、嘘でも否定してくれるのが社交辞令というものではないだろうか。
そして、しばしの押し問答の結果、結局クロムにおんぶしてもらうことになり、移動を始めて少し時間が経ったあと。
――――……なあ、ルフレ。さっき多少重くても大丈夫とは言ったが、少し軽すぎないか? ちゃんと食べてるのか?
――――は、はい……? 特務機関のご飯は美味しいですし、しっかり食べないと身体がもたないですからきちんと食事はしてますよ?
――――むぅ……そうか? 俺は、もっと肉をつけたほうがいいと思――――っ痛?!
――――お、女の子に重いとか肉をつけろとか体重の話をするのってどうかと思います……っ!
――――ば、馬鹿、ぽこすか叩くな落とすだろう?!
――――ばかって何ですか、クロムさんのばかー!
……とまあこんな感じで、何故か徐々に口数が少なくなり、妙に落ち着きがなくなっていったクロムは、ようやく口を開いたと思ったらそんな失礼なことを宣ったのだ。繊細な乙女心を傷付けられて、思わず手が出てしまったルフレは悪くない……と思う。
(でも、やっぱり失礼だったな、って反省して謝りに行こうとしたら、先にクロムさんの方が謝りに来てくれたんですよね……。エメリナさまに叱られた、ってしょげてたクロムさんとお互い謝りっこして、何だかお友達と喧嘩して仲直りするってこんな感じかもしれない、と思ったんでしたっけ……)
日記の頁から手を離して、当時のことを思い返す。クロムの、女の子に対してそれはどうなのか、という発言はこれまでも大なり小なりあって、その度にむっとしたり反論したりしたのだけれど。
――――あの人の好きなところ? たくさんありますよ。背中がね、とっても広くて大きくて、頼もしくて。すごく安心するんです。この人の側にいたら何も怖くない、って。……ふふ、ちょっと照れちゃいますね。他にも――――。
甦ってくる、おぶさっていたクロムの背のあたたかさや頼もしさに、大人の自分の声が重なる。
「だからないですってばっ!」
ばんっと机を叩きルフレは勢いよく立ち上がった。何だか日が落ちて随分立つのに部屋の中が蒸し暑い。
クロムは確かに頼りになるし、幼いながらに人を惹き付ける『何か』を持っている気はするものの、それとこれとは別だ。
「それに第一、クロムさんは王子さまなんですから。私みたいな父さまが誰かも分からない人間が結婚できる相手じゃないですよね。王子さまはお姫さまと結婚するものですし……」
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