夜の帳はすっかり降り、淡い月の光が室内に差し込んでいる。
そんな中、薄い水色の夜着に薄い肩掛け一枚という、秋も深まり始めたこの季節にはいささか不釣り合いな恰好で、ルフレは窓辺にひとり佇んでいた。
普段ならば風邪をひくぞ、と笑いながら咎めて、その後抱きしめてくれる夫――クロムも、今はこの城内にいない。
先のペレジアとの戦で多大な恩恵を被った隣国フェリア。軍事大国であるかの国は、大陸北方の広大な国土を東西に分けて二人の王が治め、数年に一度の闘技大会で東西の代表者を定める慣例がある。
武を何より尊ぶ民が毎度熱狂する闘技大会で、この度めでたく勝利を収めたのは東フェリア。クロムは東西フェリアの王となった、女王フラヴィアの即位を祝う式典に出席するためイーリスを離れているのだった。
ルフレにとっても、フラヴィアは知らぬ仲ではない。それどころか、母を亡くし父を知らず、何の後ろ盾もない流れ者のルフレに、フラヴィアは『アンタが気に入った』と言って、同盟国の軍師に対するもの以上の、まるで姉妹のような友誼を示してくれた。
本来はルフレも駆けつけて、即位への祝いを述べたいところだが、身重の体ではそうもいかない。
懐妊が分かるや城中を大騒ぎして周り、嫌というほど絶対安静を誓わせ、挙句の果てには性別などまだ分かりようもないのに、間違いなく男だ、名前はマークだな、などと勝手に決め付けたクロムが随行と共に出立したのは数日前のこと。
(そろそろ、フェリアについた頃でしょうか……)
式典は、一週間ほど続くと聞いている。フェリアは数年おきに目まぐるしく王が入れ替わるため、国主であるクロム自ら出向く必要があるのか、出席したとしても最終日まで残る必要があるのかと、長期の滞在に不満と疑念を示す廷臣もいたそうだが、先の戦役でフェリアに受けた恩は計り知れない。
クロムは朝議で、慈悲深い神竜ナーガを奉じるイーリスにそのような忘恩の徒がいるとは思わないが、と特大の釘を差して文官たちを黙らせていたらしいので、式典の最後まで見届けてから帰国の途につくはず。
帰りの日程も合わせると、帰城はしばらく先になるだろう。
それまでは、フレデリクをはじめ、クロムが残してくれていった者たちと共に、しっかりと留守を守らなくてはならない。
……そう、思ってはいるのだが。
※コメントは最大1000文字、5回まで送信できます