「ルフレ……目が覚めたか……?」
幸せに浸っていると、遠慮がちなノックの音と共に大好きなひとの声がした。
返事をしなかったらおとぎ話みたいにキスして起こしてくれるかも、と蕩けている脳は一瞬甘い期待をしたが、すぐに考え直す。
今回の一件でよく分かった。ルフレの格好良くて、優しくて、でも時々ちょっと情けない、大好きな旦那様は、意外と自分に自信がないのだ。
ルフレがしっかり安心させてあげないと、もしかしたら半ば暴走し、頭からばりばり食べ尽くす勢いだった昨夜のあれこれを勝手に反省して、しょぼくれて、自分を責めているかもしれない。
「……は、はい、起きてます……!」
布団から顔を出し、掠れた声を精一杯張り上げて返事をする。一瞬ドアの外で息を呑んだような気配があり、少ししてそろそろと、大きな身体を縮こませるようにしてクロムが入ってきた。
まるで何かやらかして、叱られるのを覚悟している犬みたいだ。ペタン、と倒れた耳と、丸まった尻尾まで見えた気がして、思わず笑ってしまいそうになるのを堪える。
手には大きなトレイを持っていて、並んだ二人分のお皿にはちょっと焦げたトーストと、端には申し訳程度にブロッコリーとにんじんが添えられていた。
「……朝ごはん、クロムさんが作ってくれたんですか?」
「あ、ああ……作ったというか、パンは焼いただけだし、野菜はお前が冷蔵庫に入れておいてくれた、茹で野菜の残りを載せただけなんだが……その、お、起きられる、か……?」
いかにも恐る恐る、という様子でクロムが尋ねてきた。
朝食を用意してくれたのは彼なりの謝罪のつもりなのかもしれないが、我慢しないで、と言ったのはルフレなのに、ここまで自分は悪いことをしました! という台詞が聞こえてきそうな表情と態度なのはどうかと思う。
(もう……仕方がないですね、クロムさんったら)
心の中で呆れまじりにそう呟き、ルフレは立ったままこちらの様子を伺っているクロムを小さく手招きした。
躊躇いがちに近付いてきた彼に屈んでもらい、痛いのを我慢しながら頬に伸び上がってキスをする。
「————っ?!」
「……おはようございます、クロムさん」
「………………あ、ああ……その、おはよう」
「言っておきますけど、私、怒ってないですからね」
大事なことなので、先手を打ってちゃんと念を押しておく。
昨夜は、彼の温もりに包まれて本当に幸せだったのだ。その気持ちがちゃんと伝わればいい。
そんな願いを込めて、たじろぐクロムの頬の反対側にも、もう一度キスをした。
「…………」
「…………」
真っ赤になって、二人、無言のまま見つめ合う。
気恥ずかしいような、こそばゆいような、何とも言えない甘ったるい空気に割って入ったのは、二人分のお腹が元気よく空腹を主張する音。
「……ふふっ」
「ははっ……!」
示し合わせたように同時に鳴った音に揃って吹き出して、しばらく笑いが止まらなかった。
笑いが収まると、どちらともなくこつん、と額を合わせる。
「…………身体、辛くないか?」
「ちょっと……。でも、いいんです。すごくすごく、幸せですから」
「……そ、そうか」
「ただ、しばらく起きられないと思うので、朝ごはんはクロムさんが食べさせてくださいね」
今日は、思い切り甘えてみよう。そう決めて、ルフレはクロムに抱き着いた。
だって、今日は日曜日だし、いいお天気だし。ちょっとくらい二人でごろごろしたって、バチは当たらないはずだ。
これからずっとずっと一緒に暮らすのだから、たまにはこんな日があってもいい。
そうだ、実際には少し先になるけれど、子どもは何人欲しいか、男の子がいいか、女の子がいいか聞いてみよう。二人でこれから、どんな『家族』を作りたいのかも一緒に。
ベッドの上でお互い身体をぴったりくっつけて、お布団に包まりながらぬくぬくして将来の計画を話し合うのは、きっととても素敵な一日に違いない。
ルフレはうっとり微笑んで、幸せ家族計画を相談するべく口を開いた。
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