気恥ずかしそうに姿を見せたルキナを目にするなり、イーリスが誇る天才軍師にして聖王代理の右腕たるルフレは石になった。
大げさではない。ルキナと連れ立って現れたシンシア達が、面白そうな顔で突き回しても、砂を頭から降らせても、脇の下をくすぐってみてもびくともしない。
常に冷静沈着、穏やかな面持ちながら、決して油断せず細心の注意を払って、相棒であるクロム率いるイーリス軍を勝利へ導く為の策を講じる彼としては珍しい。むしろ異常だ。
滅多に声を荒げることのない、けれどよどみなく指示を紡ぐ唇は、言葉を発することを忘れてしまったかのようにぽかんと大きく開かれたまま。
ルフレがこの状態に陥ってしまうであろうことを、半ば予測していたシンシア達は人の悪い笑みを浮かべているが、ルキナからしてみればいつにない様子の恋人に戸惑いを隠せない。
「あの……ルフレさん?」
おずおずとルフレの名を呼び、ルキナは一向に反応のない彼の手を取る。
途端、雷に打たれでもしたかのように、ルフレは石像から血の通った人間に戻った。
そして赤面しながら顔を覆う。距離が近付いたことで、更に細部まで見えてしまうものがあるのだ。
何がと言えば彼女の水着姿、である。
「………………ルキナ」
「はい??」
「その水着は……君が選んだの?」
あっという間に、激しい動揺をいつもの笑みの下に押し込めたルフレの視線の先には、素肌をほとんど陽光の下に晒したルキナの姿。
身に着けているものといえば、胸元を覆う真っ赤な三角形の布と、それを吊るすための紐、下半身を覆うのは腰のところで結ぶ、やはり上半身と同色の布地だけ。
ルフレと彼女には身長差があるため、ささやかとはいえ確かにその存在を主張する谷間まで見えてしまう。大変刺激的な眺めだった。
「え、ええ。そうですが……えっと、似合いませんか?」
「……いや、そんなことはないよ。可愛い……というよりは、いつもより大人っぽいかな? ルキナは手足がすらっとしていて綺麗だから、そういう格好もいいね」
にっこり。
不安げに眉尻を下げた恋人を安心させてやるように、むくむくと湧き上がる煩悩と脳内で壮絶な戦いを繰り広げながらルフレは笑ってみせた。
軍師たるもの、これくらいは朝飯前……と言いたいところであったが、実のところ冷や汗ものだ。
だがルキナは幸い気付かないようで、手放しで褒められ赤面して俯いてしまっている。自然、辺りには甘い雰囲気が漂い始めた。
シンシア達はといえば、とっくの昔に付き合っていられないと、各々好きな場所へ行ってしまっている。
(ああ、可愛いなあルキナは……。可愛い。うん、可愛い。可愛い、そう可愛いんだけど……!)
――――可愛すぎるから問題なんだ!!!
穏やかな笑みの奥で、恋人がそう内心叫んでいたことを、未来を知る少女は知らない。
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