「……いいかい、君達。これは軍師命令だ。さっき見たものは即座に忘れること。いいね?」
「ええっ~?! ルフレさんそんな無茶な……ふががが!!」
「おい、やめとけアズール! お前死にたいのか?!」
「……ルフレさん、申し訳ありませんでした。僕達はご命令に従って可及的速やかにすべて忘れますので、どうぞご心配なく」
「懸命な判断だね。忘れらない人がもしいるようなら、僕が直々に記憶を抹消しに行くからそのつもりで」
「ふがっ! ひょんはひょっふえ!!」
「貴様は馬鹿か?! 行くぞ!!」
三人がかりで引き摺られていく踊り子志望の青年と、それに付いて行く集団を遠くから見送った少女は目をきらきらと輝かせて、離れていても分かるほどの凄まじい冷気を放つ軍師へと視線を移した。
「……ここで軍師命令を持ち出すとはさすが父さん! 母さんの裸を守る為なら手段を選ばない。汚い、汚すぎますさすがです!!」
感心するところはそこなのか、というのは彼女の呟きを拾える範囲内に誰もいなかった為、少女へ指摘する者はいなかった。
ちなみに、今の事態はルフレとルキナが仲睦まじく浅瀬で水と戯れていたところ、知らぬ間にルキナの水着の紐が緩んでしまい、立ち上がった拍子に胸元を覆っていた布地が外れてしまった、まさにその瞬間をルキナと同じく未来から来た男性陣が目撃してしまったことが原因であった。
「でもちょっと手ぬるいですねー。私ならまず華炎と月光と流星ですけど! あ、滅殺でもいいかなあ」
自分の方が物騒な発言をしているとは露程も思わない、彼女の名はマーク。やはり未来から来た、ルキナとルフレの娘である。
「……あら? 何でしょう、視線を感じます……。はっ、まさかナンパ?!」
きょろきょろと辺りを見回したマークの視界の端に、こちらを見つめる少年の姿が映った。
距離があるのではっきりとは分からないが、見覚えのある……というより、誰かに似ている気がする。
彼はマークが見つめ返したことに気付いているようだが、変わらず不躾なといってもいい視線をぶつけてくる。
海で女の子を引っ掛けようという軽い、好色なものではないようだが、そうでなければ何の用なのだろう?
「むう……まさか私があんまり可愛いので人さらいの一味に目をつけられちゃいましたかね? 怪しいです……!」
そろり、そろり。
波と無邪気に遊んでいる風を装いながら、様子を窺おうと少しずつ少年の方へと近づいて行く。それは彼も同じだったようで、思った以上の速度で二人の距離は縮まっていった。
――――と、その時。
「マーク~! スイカ割りしようよーー! バジーリオさんとフラヴィアさんからの差し入れだってーーーー!」
「「はーーーーい! 今行きまーーーーーーーーす!!」」
自分を呼んだ筈のシンシアに、応える声がもうひとつ、綺麗にマークの返事に重なった。
「「…………」」
まじまじと彼女は声の主と見つめ合う。
暫しの、沈黙。
だがすぐにはっと気を取り直すと猛然と凄まじい速度で波を掻き分け、砂浜目指して泳いでいく。するとそれに倣う、マークと同じ青い髪の少年。
「ちょっと! あれは私のことを呼んだんですよ!! 何処の誰だか知りませんけど、男の子のくせにマークちゃんの真似なんてしないでもらえます?!」
「うわあ、そっちこそ止めてくださいよ人の名前にちゃんなんてつけるの! 第一、シンシアさん達は僕のことを誘ってくれたんですから、君こそ邪魔しないで下さい!!」
「だーかーらー! 私の名前はマークですっ。父さんはルフレ、母さんはルキナ!!」
「僕だってマークですよ! 父さんはクロム、母さんはルフレ、姉さんはルキナ……って、」
ばしゃばしゃばしゃ。
勢い良く波を切っていた動きを止め、二人はまた、まじまじと互いに見つめ合う。
再びの、沈黙。
そして今度のそれは随分と長かった。
「「……母さん(父さん)の名前が、ルフレ??????」」
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