「……も、もう、マークも、いきなり何を言い出すのかと思ったら……」
逃げ足が素早い息子が姿を消すと、ようやくルフレは落ち着いて、ぐったりと椅子に腰掛け直した。その顔はまだ赤く、自分の手を当てて頬の火照りをどうにか冷まそうとしている。
一方のクロムは少し立ち直りが早く、「本当に嵐みたいで騒がしい奴だな、あいつも」と呆れたような顔で呟いた。
そんな夫を見上げて、ルフレは何かを言いかけて口ごもる。すぐに察してどうしたのかと問うても、何も言わない。だが何度か促す内、ようやくおずおずと口にしたのは。
「クロムさんは……綺麗な女の人をいっぱいはべらせたいんですか?」
「〜〜〜〜っ?! そ、そんなことある筈ないだろう!」
「でも、その……王族の方は何人も奥さんがいるのが普通だと本にも書いてありますし……。そういえば、この間も酒場で綺麗な女のひとに囲まれて鼻の下を伸ばしてた、ってガイアさんが」
「なっ……ご、誤解だ、ルフレ! 違うっ、断じて、断じて違うぞ!」
あいつの報酬はしばらく、ソンシンの裏名物らしい『くさや』にしてやる、とこの時クロムは誓ったとか、誓わなかったとか。
それはともかく、力いっぱい否定してもルフレは納得してくれなかった。
いつもの軍師服ではなく、ドレス姿――ただし動きやすく、コルセットを使わないゆったりとしたもの――の自分の胸元を見下ろして、悩ましげな表情だ。
「男の方って、やっぱりこう、胸がばーんで腰がきゅっとなって、むちむちで、色気たっぷりの女性がお好きなんですよね? クロムさんも実は物足りなく思っていたり……」
「馬鹿を言うな! 俺はお前だけしか欲しくない。お前がいい!!!」
***
クロムが大音量で叫んだ時、こっそり様子を伺いに戻って来たマークもそれを聞いた。
扉の隙間からは、互いにまた真っ赤になった両親が、硬直して見つめ合っているのが見える。本人たちは真剣なのかもしれないが、見ているこちらはこそばゆくて仕方がない。
(ほんと、毎日が蜜月状態ですね、父さんと母さんは)
これでどうして、この時代の自分がまだ生まれてこないのか甚だ不思議だった。
そしてはたと思いつく。両親の場合、英雄色を好むの『色』とは複数の異性を囲う方面にいくのではなく……。
(相性が良すぎて、お互いをお互いで満足させちゃってるから、違う人に目がいかなくなるのかも……?)
新しい発見だったが、これをそのまま素直に口にしてはまたこっぴどく叱られるだけなので、浮かんだ下世話な考察は、誰に伝えることもなくそっと心に仕舞い込んだのだった。
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