その男、朴念仁につき - 1/2

 深々と。

 それはもう深々と、イーリス自警団の副長にして指南役でもある騎士、フレデリクは溜息を吐いた。

……それで、今回は何をなさったのです?」

 問うても、目の前の主は拗ねたように視線を逸らすばかり。それがどこか子供のようで、不敬だと思いつつもいたずらをしでかした弟を叱るような心持ちになってしまう。

 ――――事の起こりは、今日の夕刻。

 クロム率いる自警団は、各地で出没する屍兵やペレジアの手のものと思われる賊たちを討伐するため、イーリス各地を廻っていた。

 フェリア王となったフラヴィアより借り受けた兵たちは、さすがは軍事大国と唸らされるほど優秀で、当初の予定よりも大分早く討伐は終わった。

 屍兵の出現にはどうやら規則性があるらしく、一度倒してしまえば、しばらくはその周辺で現れることはない。そのため、比較的安全に陣を張って休むことができるのだ。

 見張りは交代で務めるが、フレデリクは日頃の習慣から、自分の足で陣内を見回ることにしていた。消耗した武具を確認し、食事の準備をしている者たちの所へ顔を出し、変わったことがないか目を光らせる。

「きゃぁっ?!」

 聞き覚えのある女性の悲鳴が聞こえてきたのは、フレデリクが見回りを半ばほど終えたところだった。

 敵襲かと身構えたが、辺りに不穏な気配はない。

 危急の自体があれば見張りの兵が知らせるはずだが、それもなかった。

 訝しがっていると、先ほどと同じ方角からさらに物と物がぶつかるような鈍い音と、再び女性の悲鳴。

「きゃあっ、きゃあーっ!!」

 何やら一層切羽詰まっている。しかもこの声はルフレ――フレデリクの主であるクロムが行き倒れていたところを拾った、自警団の軍師のものではないだろうか。

 やはり何かあったのだと断じて、フレデリクは声のした方へと急いで駆けた。

 しかし、こちらだと目した場所へ辿り着いても、目に映るのは幾つかの天幕と、そして見張りを任された兵士が直立不動で立っているだけだった。

「ああ、すみません、ちょっとよろしいですか」

「副長殿! 見廻りご苦労様であります!」

 声を掛けられた兵士はますます居住まいを正した。確か、フェリア王より借り受けた兵の内の一人だったように思う。日頃の訓練の賜物だろう、敬礼は完璧だった。

「ひとつお尋ねしたいのですが、つい先刻、変わったことはありませんでしたか?」

「はっ……。いえ、その……

 フレデリクが尋ねると、あからさまに兵士は動揺した。忙しなく目が泳いでいる。

「あったのですね? 敵襲ですか?」

「いえ! そうではないのですが、実は……

「実は?」

 そこで彼は、きょろきょろと辺りを見回した。周囲を憚るように声量を落とし、躊躇いがちに口を開く素振りを見せたので、訝しく思いつつも耳を寄せる。

 差し迫った危険がある、というわけではないらしくそこは安堵したが、周囲の者によほど訊かれたくない話なのか。

「だ、団長殿が……軍師殿を、その………………裸で、追い回して、いました」

………………は?」

 理解が追いつかず、たっぷりと間をあけたあとフレデリクの口から出たのは。

 何とも気の抜けた、間抜けという外ない声だった。

 その後、好奇心に負けてこっそり一部始終を見てしまったという彼の話ではどうにも詳しい経緯が分からず。さりとて話が広まってはまずいので、固く口止めだけをしてクロムを探した。

 自分の天幕に戻っていたクロムは当然ながら服を着ていたが、フレデリクを見ると悪戯の現場を押さえられたように顔を顰め。

 ――――そして、冒頭へと戻る。

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