「好きだ!! 結婚してくれ!!!」
物資を保管している天幕に入るなり開口一番そう叫ばれ、自警団一、人の良いと評判の――それがいいのか悪いのか分からないが――ソールもさすがに顔をひきつらせ、その場でしばし固まった。
視線の先には濃い青髪の青年。
イーリス自警団の団長で、姉のエメリナが亡くなったため聖王の位を継ぐことが決定しているクロムだ。
今はペレジアとの戦に勝利し、軍を纏めて祖国へ凱旋する道中。日が暮れたので開けた場所に陣を張り、野営しようということになって。ソールは物資の点検と補充をしておこうと、頼まれたわけではないのだが気を利かせ、この天幕までやって来た。けれど何故、多忙な筈のクロムがここにいるのだろう。
(ええと……今、結婚してくれって言ったよね? 結婚。けっこん……けっこん……)
まだ聴覚にガタがくるには早すぎる。けれど今、自分の耳が拾った音は確かに、いわゆる求婚の台詞というやつで。予想外の言葉を浴びせかけられ硬直しながらも、ソールの頭は凄まじい勢いで回転していた。
目の前のクロムはやや頬を紅潮させている。瞳も感情が高ぶっている所為なのか潤んでいて、恋する男そのものだ。それはいい。それはいいが、問題なのは先刻の台詞がまるでソールへ向けて発せられたように聞こえたことである。
(全然女の人に興味を示さないなとは思ってたけど、クロムってまさかそういう趣味が……。でも僕には指輪を渡したいひとがいるし、っていやいやいや! きっと何か事情があるんだようん。きっとそうだ、きっと)
途中で思考が脇道に逸れ、近頃いい雰囲気になっているとある仲間の女性の、滅多に見ることはできないがその分とてつもなく綺麗な笑顔が浮かんで顔が赤くなったりしながらも、どうにか先ほどの台詞は自分にではなく、他の誰かに対してのものだという、冷静になって考えてみればごくごく当たり前の結論に達する。
ようやく身体の硬直も解け、「……何してるの、クロム?」と恐る恐る尋ねてみたソールに返されたのは、もうすぐ即位する若き王というよりは、世慣れぬ青年のように頼りなげに紡がれた「ルフレに結婚を申し込もうと思うんだが……その、今の台詞、どうだ?」という問い掛けだった。
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