よくよく事情を聞いてみれば、クロムは彼が道端で行き倒れていたところを助け、軍師として自警団に加わったルフレへ愛の告白と、求婚をするべく一大決心をしたらしい。
いささか遅すぎるきらいはあるが――何しろ自警団の仲間たちは皆、着飾った美しい令嬢たちに囲まれてもどこ吹く風だった団長が、自分の軍師であるルフレへ当初から随分と心惹かれている風なのを気付いていたので――、何にせよ喜ばしいことである。
しかし女性を口説く、という生まれてからついぞしたことのない行為にいざ臨もうとして、はたと困ってしまったというのだ。そして相談したのが数多くの女性と『親交を深めて』いるヴィオール。
その人選もどうなのかとは思うけれども、彼はクロムに『意中のあの娘の心を絶対モノにする百の台詞』なる、いかにも怪しい本を手渡し、『ここに書いてある台詞をさらりと口にできるようになれば、ルフレ君も君にイチコロさ!』と宣ったという。
「それでさっきからここで練習してたんだが、どうにも……難しくてな」
「うん。それはまあ、そうだろうね……」
ヴィオールにからかわれたのだ、とはどうしても言えないソールだった。
第一、妹のリズからして容赦なく朴念仁とこき下ろすクロムが口にするには、この本の中の台詞は難易度が高すぎる。
辛うじて思い切り良く口にできたのが、意外性で攻めてみましょうと銘打ってある頁のさっきの言葉で、そこへソールが入ってきてしまったというのが真相のようだ。
「なあソール、どうすればいいんだろうな……。もうすぐイーリスに着いてしまうし、かと言ってこのままじゃ、あいつに気の利いた台詞ひとつ言えん」
はあ、と大きくため息を吐きクロムは物資の入った木箱に腰掛けて肩を落とす。
あいつ、というのは勿論ルフレのことだ。けれどきらきらした言葉を並び立てなくても、とっくに彼女はクロムのことを特別に思っている。その、筈だ。そうでなくてはどうして、イーリスに何の義理もないルフレが今の今まで彼を献身的に支え続け――あんな心を許しきった笑みを見せたりするだろうか。
だからソールは、この頼もしくも不器用な団長殿の隣に座り、背中を力付けるようにぽんぽんと叩いた。
「クロム、大丈夫だよ。こんな飾り立てた言葉を使わなくても、君がありのままの気持ちをルフレに伝えれば、それでいんだ。心配ないさ、きっと上手くいくから」
「そう、か……?」
「うん、絶対大丈夫。僕が保証する」
第一、君は不器用なんだから、口説き文句は短くするべきだよ、との助言は心の中に留めておいた。
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